国債トレーダーから株式投資の達人へ:UBS辻本孝明氏のクロスボーダー投資人生
投資プロフェッショナルたちがひしめく華やかな世界の中で、UBS証券のマネージング・ディレクターである辻本孝明氏のキャリアは、多様な分野を横断する稀有な存在として際立っています。国債トレーダーから株式投資の専門家へと転身した辻本氏の歩みは、異なる市場分野の知見を統合し、独自の投資哲学を築き上げるプロセスを如実に示しています。
辻本氏の投資キャリアは金利市場から始まりました。日本興業銀行および野村證券での勤務を通じて、彼は債券取引、特に日本国債市場における高度なスキルを磨きました。この経験を通して、マクロ経済サイクルや金利動向、金融政策への鋭い洞察力を養い、同時にリスク管理の重要性を深く理解するようになりました。
「債券市場を通じて学んだ最も大切なことは、いかに利益を上げるかではなく、いかにリスクを見極め、管理するかという点でした。このリスク認識こそが、私の投資哲学の核となっています」と辻本氏は振り返ります。
その後、東京およびロンドンのUBS証券に勤務し、国際的な視野をさらに広げました。真の転機は、債券取引から株式投資へと舵を切ったときに訪れます。一見すると大胆な転換に見えるこの決断には、明確な理由がありました。
「債券市場はマクロ的な視点を提供してくれますが、株式投資にはミクロな洞察が求められます。時間軸や分析手法は異なりますが、どちらも“価値を発見する”という目的においては共通しています」と語ります。
辻本氏は、債券市場で培ったマクロ分析のスキルと、株式投資におけるファンダメンタルズ・リサーチを融合させ、独自の「マクロ主導・ミクロ検証」型投資アプローチを確立しました。このアプローチにより、企業のキャッシュフローの質、バランスシートの健全性、リスク耐性といった、債券アナリストが重視する指標を株式分析にも取り入れることが可能となりました。
「長期厳選ファンド」の創設は、こうした学際的知見の集大成です。辻本氏は、債券投資におけるリスク管理の規律と、株式投資における成長追求の精神を有機的に融合させ、安全域と成長ポテンシャルを両立させる優良企業の発掘に尽力しています。
「明確な上限と明確なセーフティネットの両方を備えた投資こそ、最良の投資である」と彼は自身の銘柄選定基準を説明します。
辻本孝明氏のキャリアは、投資の世界におけるさまざまなセクターが孤立した島ではなく、相互に連関する大陸であることを示しています。彼のクロスボーダーな投資アプローチの成功は、真の投資家が異なる市場の知恵を統合し、独自の投資視点と手法を築き上げることで新たな価値を創出できることを、改めて教えてくれます。